知識経済部門を中心とした日米独等8ヶ国経済比較: 1995〜2011年産業連関分析


第6節 おわりに:本論文の総括と今後の課題
 本論文の要約
  8ヶ国の1995、2000、2005、2011年米ドル表示全産業部門生産額の各国の2011/1995年比は、日本の経済(生産額)成長は、他の7ヶ国より極端に低いことを示し、スカイライン図分析は各国の1995〜2011年の経済構造変化を明らかにしている。スカイライン分析が示しているのは、日本は製造業の輸送機器部門の成長が牽引する経済で、サービス(第3次産業)部門合計の全部門に対する比率も50%台で緩やかに増大している国である。
米英両国は、サービス部門の構成比率が高く成長率も高い国であり、ドイツは製造業の化学品、基礎金属&製品、電気・光学製品および機械類、輸送機器5部門の構成比、自給率および輸出率が高い国で、フランスは同類の国だがサービス部門が増大している国である。フィンランドは、第1次産業の農林水産業、パルプ紙印刷が加わった製造業の成長率が高い国であり、スウェーデンは、パルプ紙印刷が加わった製造業の成長率が高い国で、デンマークは第1次産業の農林水産業、飲食料煙草、機械類が加わった製造業、及び水運(海上輸送)の構成比率、自給率および輸出率が高い国で、2000年以降水運(海上輸送)部門が経済成長原動力の国である。
第3節第3項の3「日本サービス産業の低生産性と日本の失われた30年」で、日本の非正規労働者は社会保障無しの報酬受給、7ヶ国の非正規労働者は社会保障含む報酬受給の情報を検討したが、日本の非正規労働者のみ社会保障費無しの報酬受給であった。 8ヶ国1995〜2011年国内生産額推移の分析が示しているのは、日本の全産業部門生産額は2011/1995年比110.5%で8か国中最低であり、2008年リーマンショックの影響はサービス部門の減少に見られるが、アメリカを含む7か国の検討した部門はリーマンショックの影響は一時的に受けたが以後回復し全部門で順調に成長を遂げている。
 8ヶ国 1995〜2011年就業者数推移の分析が示しているのは、その他7ヶ国の全部門就業者数は7.3〜21.4%増加しているのに日本は13.6%も減少させていることが経済不振の大きな原因である。8ヶ国1995〜2011年パートタイム(非正規)就業者割合の推移分析より、日本のパートタイム(非正規)就業者割合は他の7ヶ国並みであり、他の7ヶ国との違いはパートタイム(非正規)就業者が社会保障費を受給していないことだけである。以上の事実を考慮すれば、他の7ヶ国並みの経済成長を取り戻すためには、パートタイム(非正規)就業者に社会保障費を給付する報酬制度に改革し、パートタイム(非正規)就業者の労働が生み出す生産高の税収を使用して知識経済部門を含むサービス部門の雇用(就業者)創出を行うことと考えられる。
 8ヶ国1995〜2011年生産性推移分析は、日本の生産性が全産業部門、製造業部門、サービス部門、知識経済部門、教育部門と全ての部門で他の7ヶ国より非常に低いことが、経済低迷が続いている原因の一つである。
 今後の課題
 社会経済口座(Socio Economic Accounts)は、
H_EMP 就業者総就業時間
GO_P  生産額価格レベル         1995年=100
 Ⅱ_P  中間投入価格レベル        1995年=100
 VA_P  付加価値価格レベル        1995年=100
GO_QⅠ  生産数量指標            1995年=100
 Ⅱ_QⅠ  中間投入数量指標          1995年=100
 VA_QⅠ  付加価値数量指標          1995年=100
等を用意しているので、これらの指標を用いて、1995〜2011年8ヶ国の就業者総就業時間の推移、生産額価格の推移 、生産数量の推移などの分析の可能性や、各国の経済成長を検討したい。

[注]
1)ロベール・ボワイエ著・山田鋭夫他監訳(2011)
世界の主要国の経済を、MR1金融支配型の米英、MR2 従属金融型のハンガリー、アイルランド、アイスランドなど、MR3 イノベーション輸出型のドイツ、日本、」MR4(地中資源活用の)地代型のロシア、ベネズエラ、サウジアラビア、MR5 大陸経済型の中国、インド、ブラジル、MR6 国際的編入により接合解体したハイブリッド型のアルゼンチン、メキシコ、MR7 世界市場からの切断型のアフリカの7経済体制に分類し、リーマンショック後の世界経済のグローバル化について考察している。

2)「ポジティヴな脱工業化」と「ネガティヴな脱工業化」
Rowthorn, R. and Wells, J (1987)によれば、脱工業化は「ポジティヴな脱工業化」と「ネガティヴな脱工業化」に分類され、「ポジティヴな脱工業化」とは、製造業が技術革新を進めてゆくことにより省力化・省人化が可能となり、余剰化した労働力がサービス業に吸収される形で脱工業化が進行するというものである。 この場合、製造業部門の産出量の増大(或いは維持)と雇用数の減少が同時に発生する。「ネガティヴな脱工業化」とは、国内需要の減少や国際競争力の減退により、製造業部門の産出が減り、解雇やレイオフという形で雇用数の減少が同時に発生するものである。この場合、製造業部門の産出量は減り、同時に雇用数も減少する。

3)Franke, R. and Kalmbach, P.(2005)のデータ
1.農林水産業、2a・輸出コア製造業、2b・その他製造業、3・建設、4・(製造業に関連の深いサービスを)狭義のサービス、4b・広義のビジネス関係サービス、5・消費者サービス、6・社会関連サービスの6部門について、1991-2000年間の各部門の生産高、雇用、生産性の変化を分析している。

4) JP SI Newsletter 2013 Oct-Dec (2013) 
シンガポールにおける製造業の新動向 は、同国に工場やR&Dセンターを開設している日本企業、住友化学、電気化学工業(Denka)、昭和電工、コニカミノルタ、旭化成、日本ゼオン、ランクセス、住友精化などを紹介しながら現在のシンガポールの製造業部門の好調は、同国政府が製造業部門のGDPを20∼25%に維持することに尽力し、2012年には製造業がシンガポールのGDPの21%を占め、また将来の製造業を支えるために必要な人材を育てる枠組みを強化するために、様々な関係者や教育機関と協力していると伝えている。今OECD・岸本光永&姫野尚子訳(2001)『グローバルエコノミーの未来▰ロングブームに向かっているか』より、知識経済確立のための条件とシンガポールが行った投資を引用すると、3.5 結論とOECDへの影響が述べている要点は、
知識が高い価値を持つような経済や社会への移行は、その速さや配分、変化の結果に関する重大な不確実性が存在している。しかしコストを支払うことなしには、どんな便益も享受することはできない。政策への影響を評価するためには、便益(と、どのようにしてその可能性や普及を増大させるかということ)と、損失(どのようにしてその衝撃を縮小させるか)の両方を理解する必要がある。 - - - -
過去3年間(1990年代後半)にシンガポールが経験してきたことは、効率的な知識力を利用し、莫大な知識の可能性を生み出す能力の存在をはっきりを証明している。知識経済は豊かにする潜在力を持っており、物質資源や環境能力の限界によって制限されることがない。ただし最近の理論によれば、知識経済への変化は非常に多くの職を喪失させ、多くの労働者は、失業や職業水準の低下や所得の低下に悩まされるだろう。 短文で述べることは困難だが、まとめてみると公的部門は新しい情報ネットワークへのアクセスを支援する必要がある、流れに乗り遅れた人々をどのように助ければ良いのだろうか。インフラ整備や教育の提供といった伝統的な活動のいくつかは、知識経済においてますます重要になっていく。また重要な問題が存在している。それは、どのようにして勝者の潜在能力を高め、敗者を支援する最良の方法を何か、ということである。 具体的方法の幾つかは、
P96:●製造業からサービス業への労働力の移動。より知識集約的な学術誌などは、サービス分野として捉えられることになる。というのも、これらに対する投入物やそこから生み出される生産物には実態がないからである。先進国では、このような変化はずっと(長い間)強力なものであり続けた。
●見えざる資産への投資の拡大
●コンサルティングや教育、ハイテクやヘルスケアといった知識集約的な分野における新規雇用の拡大
●“知識労働”がより高度な教育水準を必要としているという証拠、およびそのような知識労働者の給与がますます増加しているという証拠。
 - - - -
P99の図の注は、例えば、シンガポールはハードウェアを欠いてはいたものの、自国民のソフトウェアとハードウェアに対する巨額な投資により、経済力を強化した。 - - - -同国は、将来に向けた戦略を、自国民の知識集積に対する投資のよい環境に置いている。
リーマン・ブラザーズの破綻以前のシンガポールの経済動向も赤門マネジメント・レビュー 6 巻2 号 (2007 年2 月)が次のように伝えている。すなわちシンガポールや香港は、1970 年代に日本やアメリカの製造業がアジアにおける低コスト生産のための工場進出先として最初に選んだ国であった。しかし、その後、シンガポールや香港は経済発展するとともに、急速に賃金が高騰し、低コスト生産の立地としての魅力を失い、進出企業はタイ、マレーシア、インドネシアや、香港の隣の深圳や東莞に低コスト工場は移っていったし、実際香港には製造業らしい工場はほとんど残っていない。しかしシンガポールの製造業は空洞化しなかった実情が紹介されている。

5) 日米独等8ヶ国米ドル表示全産業部門生産額の1995〜2011年推移
 WIOD主要表は国際産業連関表(World Input-Output Tables)、各国産業連関表(National Input-Output Tables)は米ドル換算のデータがインプットされているので、各国の1995〜2011年の成長割合を参考にしてスカイライン分析を行うための8ヶ国の1995、2000、2005、及び2011年の生産額推移を表Ⅹに示す、

 表Ⅹ 8ヶ国の1995、2000、2005、2011年米ドル表示全産業部門生産額*  unit:(millions of US$)
 国名     1995年    2000年     2005年    2011年  2011/1995比
日本      9871412 8689635 8631945 11333423     1.1481  
アメリカ    13475213  18304783    2307226    26918120   1.9976  
イギリス   2101261   2687525    4191589     4419108 2.1031 
ドイツ      4289715 3399402 5034338 6773098 1.5789 
フランス    2756129    2414856    3873090     5070097 1.8396 
フィンランド   239855 235412 377278 530094 2.2101 
スウェーデン 461977 466126 694303 1036533 2.2437 
デンマーク 298366 269250 444056 600378 2.0122 
*:WIOD産業連関表各国表のUS$表示部門生産額と自国通貨額表示の社会経済口座の生産額(GO)のデータ表示は、各国通貨の交換レートが年により変動するので、アメリカ以外の国では連動していない。即ち、ドイツの1995年:4289715 と2000年:3399402、日本の2005年:8631945、2011年:11333423のインプット が間違っているわけではない。

 表Ⅳの各年の2011/1995年比データは、表Ⅴのデータに近似しており各国の1995〜2011年の生産額増大率の判定に使用できる筈である。1995〜2011年の経済成長を分析するためには表Ⅳのデータを考慮すべきであり、スカイライン図分析は各国の経済構造変化を明らかにするだけであることに留意すべきである。いずれにしろ1995〜2011年の日本の経済(生産額)成長は、他の7ヶ国より極端に低い。

6)OECDの(非正規)就業者の定義と本川 裕(2014)「図録正規雇用者と非正規雇用者の推移」の非正規雇用者の定義は異なっているので、1995年~2011年(非正規)就業者のデータ・グラフは一致しない。日本の非正規雇用者の人数は正規雇用者並みに働いている派遣社員・契約社員・嘱託を含んでいるが、OECDのパートタイム(非正規)就業者は週30又は35時間(30 or 35 hours per week)以下の労働、国によって異なっているが、の就業者である。日本の非正規就業者の人数は、OECDの(非正規)就業者より多数の年が多い。

参考文献とデータソース
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宇多賢治郎(2011) Ray2-j 「Ray スカイラインチャート作成ツール(2.0j版)」
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岡本・猪俣編{2006}『国際産業連関―アジア諸国の産業構造(Ⅴ)』アジア産
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JETRO(2009) 「欧州各国の雇用制度一覧」ユーロトレンド 2009年8月pp1-47 

神野直彦・井出英策編(2006)『希望の構想-分権・社会保障・財政改革のトータルプラン』岩波書店 2006年4月 

神野直彦・宮本太郎編(2011)『自壊社会からの脱却・もう一つの日本への構想』岩波書店2011年2月

日本経済新聞(2013)「非正規社員比率38.2%、男女とも過去最高に」日経電子版 7月13日

本川 裕(2014)「図録正規雇用者と非正規雇用者の推移」(資料)労働力調査 2014年3月
藤川清史(2005)『産業連関分析入門・ExcelとVBAでらくらくIO分析』日本評論社 2005年6月15日 pp153-166
田原慎二(2009)「製造業とサービス業の相互連関と構造変化:1980-2000年の日本経済の産業連関分析」『横浜国際社会科学研究』第14巻第3号pp114-115

法政大学日本統計研究所(2013)『統計研究参考資料 No 114 世界40カ国の自給自足構造―WIODデータによるスカイライン分析―』2013年9月 pp2-127

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労働政策研究・研修機構(2010)11月「資料シリーズNo.79欧米における非正規雇用の現状と課題」平成22年11月 5日

労働政策研究・研修機構(2011)11月「イギリス派遣労働者の均等待遇、10月から義務化」2011年11月9日
労働政策研究・研修機構(2012)4月「国別労働トピック2012年4月」アメリカ景気後退前の水準を回復―派遣会社の雇用する臨時労働者数

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藤田誠一(2005)『経済学研究のために』(第9版)国際金融論 「国際通貨システムとその改革」

労働政策研究・研修機構(2005)1月「ドイツにおける派遣および「見せかけの自営」労働者」
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Alphaliner – TOP 100 Operated fleets 2014年1月24日 

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OECD Short-Term Labour Market Statistics(2014)
Rowthorn, R. and Wells, J (1987) Deindustrialization and Foreign Trade, Cambridge University Press



謝辞
WIODを使用して、『知識経済部門を中心とした日米独等8ヶ国経済比較:1995〜2011年産業連関分析』の分析を開始する際に、ご指導頂いた長谷部勇一教授、現在横浜国大学長、および本論文の校正を1年以上にわたり細部まで実施して頂いた居城 琢准教授に深く感謝いたします。



中屋宗寿
横浜国立大学 国際社会科学研究院 研究生 ~2015/3

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